著 書

自動車保険金は出ないのがフツー
(幻冬舎新書)(2010年刊)

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本書概要

 交通事故の被害に遭ったら、治療費や休業損害は、相手の自動車保険金からすんなり出ると誰もが思っている。
 しかし、現実には出ない。バイク転倒で両脚を切断しても、「故意」に起こしたとして、損保は支払いを拒む。
 保険金の支出を彼らは「損失(ロス)」と呼ぶ。支払いを渋り、利益追求に腐心する損保。泣かされる被害者。
 その不払いの実態と狡猾な手口とは? 正当な賠償金を獲得するにはどうすべきか? 交通事故一筋48年の弁護士が、保険金を出させる方法を超実戦的に解説。

目次

第1章 「不払い」こそわがポリシー

跳びはねるタイヤ/予想だにしないA損保の回答/工学鑑定による立証/訴訟でのA損保担当者の証言/一審の全面勝訴から控訴審へ/高裁での和解/盗難事故/N損保の回答/法廷での攻防/遅延損害金までケチる/バイク転倒/支払不能通知/治療費の支払ストップ/接骨院を冷遇しようとする損保/「中止」の診断の悪用/会社役員の休業損害/商売上の秘密情報を開示せよ/泣き寝入りを待っている/自賠責・後遺障害保険金/被害者のヴィジョン

第2章 極秘社内指令 保険金は出すな、泣き寝入りさせろ

事務員応募者の語る損保の体質/保険の自由化がもたらした出し渋り/懲りない不払い/だまる被害者・うるさい被害者/太っ腹な課長・小心な課長/損保側弁護士のがむしゃらさ/若手とベテラン/損保側弁護士のとる究極の一手/被害者の苦情を封じようとする作戦/ときには被害者の言動が不払いを招く/治療の引き延ばし/新車を買って返せ/恐い目に遭ったサングラス

第3章 どこまでは出て、どこを超えると出ないのか

むち打ちは一か月、三か月、六か月が目安/同意書に基づく医療調査/主婦の休業損害は一日一万円弱が当然/入通院(傷害)慰謝料の正当な基準/自賠責保険金の限度額を定番とする損保の悪辣さ/示談後の来訪/はめられた!/評価損も出ないのがフツー/物として扱われるペット/出る保険金もある/保険金が払われない場合をチェック

第4章 きちんと出させるには「出るとこへ出る」

力の差を知る/戦略の差/圧倒的な経済力の差/弁護士のみつけ方/専門外の弁護士/なぜ交通弁護士は少ないか/損保側弁護士と地方の問題/地方の被害者の疑心暗鬼/敵に塩を送る/内部規定で払わない弁護士費用/弁護士をつけると損保の態度が変わる/出るとこへ出る/交通事故紛争処理センター/日弁連交通事故相談センター/慰謝料を弁護士会基準より値引きしがちな日弁連の自己矛盾/紛セと日弁連とどっちが得か/民事調停はご近所のご隠居的/やみくもに調停を申し立てる損保側弁護士

第5章 もっともっと徹底的に出させる超絶訴訟戦略

弁護士の選択/自賠責保険金を先取りするかしないか/年五%の遅延損害金の付加/和解における「調整金」/被害者の経済状態が決定要因/自賠責への時効中断/加害者が悪質な場合の慰謝料の増額/兄弟姉妹の慰謝料/逸失利益の考え方/県立高校の教師のケース/主夫の逸失利益/女子年少者の逸失利益/顔の傷の男女差別/男は顔の傷の一つや二つでガタガタ言うな/顔の傷は減収をもたらすか/損保側医師による意見書/被害者のとる次への的確な一手/国税調査官並みの税理士の調査/ビデオ撮影の技術/同一の車を使っての実験映像/ナレーションを練る/夜の現場撮影/反論を封じるDVD/和解か判決か/和解決裂から判決へ/金額に差が出る和解と判決/和解するメリットは何か/注意すべき既払金の計算/損保の都合で和解を先送りする場合の「調整金」

第6章 落とし所を知れ、あるいは弁護士の品格

因果な商売/退くときは退く/落とし所を知れ/類は友を呼ぶ/損保側弁護士の報酬のからくり/司法研修所を出てホームレス/初回の提示五八〇万円、二回目ゼロ回答/K弁護士からの丁重な謝罪/重傷事故では訴訟まで視野に入れる/立証責任五分五分論/闘わずして勝つ

プロローグ

 ミステリー作家ジョン・グリシャムの映画化もされた小説『ザ・レインメーカー』(邦題『原告側弁護人』白石朗訳 新潮社)に、次のような一節があります。
 急性骨髄性白血病に侵され、死に向かって日に日に衰弱していく青年が、生命保険会社に保険金を請求します。保険会社は支払いを拒否しました。
 裁判で証人として喚問された査定担当の女性はこう証言します。
 「会社の方針に従い、**年はすべての案件について、一律に保険金の支払いを拒否することにしたのです。ひとつ残らずです。理由のあるなしにかかわらず」
 契約者は当然、クレームを伝えます。その結果、正当に思える少額のケースは審査することにしますが、少額ではないケースは、弁護士が介入してこない限り支払いを拒みつづけます。こうして、保険金の支払いを大幅に減らすことができたと語ります。
 これは、フィクションの中での生保のあるスタンスを表現したものですが、日本の損保にもあてはまる話です。
 自動車保険におきかえてみましょう。
 交通事故が起きたなら、保険金は出る。当然出なければおかしい。いざというときのために入った保険なんだから。あなたはそう考えていませんか。
 実際はちがいます。保険金は出ません。正確にいうなら、一銭も出ないとは言わないが、満足するような保険金は出ないのが普通です。
 なぜか。
 こたえは簡単。出したくないからです。損保は、保険金の支出を「ロス(損失)」と呼んでいます。損保は営利事業ですから、損失は招きたくない。それが出し渋りをする理由です。
 弁護士活動をしている中で、最近、特に感じるのは、自動車保険における損保の不払い、支払遅延が目に余るという現実です。2008年秋の、リーマン・ショックによる金融危機以降、不払いはよりひどくなった感じがします。事故の被害者からすれば、当然支払われるべき保険金が全く支払われなかったり、途中で一方的に打ち切られたりするため、賠償問題がこじれ、紛糾するケースが後を絶ちません。
 その根底には、「自動車保険金は出るのが当然だ」と考えている被害者と、「保険金は出さない(払わなければいけないことは十分分かっていても、それでも出さない)」を内々の基本的なポリシーとする損保との間に、意識上の大きな乖離があるからです。
 この本では、
  第1章で、保険会社の出し渋り、支払拒絶の実態を知っていただき、
  第2章では、保険会社の出し渋りの原因と心理を探ります。
  第3章では、どこまでは出て、どこを超えると出ないのか、その分水嶺について解説します。
  第4、5章では、保険金を出させる方法と訴訟戦術を、
  第6章では、損保側弁護士の現実と今後の損保への対処についてみていきます。
 いま現に、損保との交渉に苦しめられている方は、ご自分に必要な章のみをお読みいただいても分かるようになっています。
 私のオフィスには、毎月、沢山の相談者がお見えになります。ホームページを見てアクセスしてこられる方の大部分は、インターネット上で交通賠償に関する基本的な情報を入手しておられます。そういう方々に共通している弱点があります。
 それは、慰謝料とか逸失利益とか、個々の情報が集積はされているものの、それらが全体として統合され、関連づけられていないということです。損保の真意もつかみかねるために、今後どう動いてよいか分からず、損保の提示案が正当なのかどうか、戸惑っておられます。
 この本は、インターネットなどでなんとなくつかんでいる知識を統合し、今後の水先案内をしようと試みたものです。

エピローグ

 日本史にのこる一大屁理屈といえば、方広寺鐘銘事件でしょう。
 方広寺は、豊臣秀吉が子孫の繁栄を祈願して、京都・東山に建立した寺です。ところが地震や火事でたびたび倒壊、焼失の憂き目に遭いました。三度目の再建に着手した秀頼が、1611年に大仏殿を落成させます。
 そこには、でき上がったばかりの梵鐘が吊されます。
 豊臣家を滅ぼす口実をみつけたいと考えていた徳川方は、この鐘に刻まれていた多数の銘文の中で、次の八文字に着目しました。

  國家安康
  君臣豊楽

 「この四文字(國家安康)には大御所さま(徳川家康)を呪い奉る文言が含まれております。家と康を二つに引き裂く。すなわち、大御所さまを真っ二つに引き裂くという呪いが込められているのでございます。さらに、こちらには『君臣豊楽』とございます。これは大御所さまの首をとったのち、豊臣家を末永く楽しむとの意にちがいありません。天下の繁栄を祈願すると見せかけ、かような 呪詛(じゅそ)を込めおくとは、不埒千万(ふらちせんばん)。秀頼公に謀叛(むほん)の意ありとされても、致し方ございますまい」

(原作火坂雅志『天地人』より。脚本小松江里子、NHK総合テレビ、
2009年大河ドラマ『天地人』、「第45回・大坂の陣へ」から引用)

 この言いがかりを考案したのは、家康の側近、金地院崇伝(こんちいんすうでん)といわれています。
 もし彼が現代に蘇り、巨大損保に入社したなら、誰も考えだにしない屁理屈を創案して保険金の支払いを拒むという才能により、三段跳びで出世の階段を駆け上るでしょう。30代で執行役員、40代前半で社長の椅子に座るのは間違いなさそうに思います。
 さらに幕府は、おかかえの儒学者林羅山にも、この解釈の正当性を学問的に裏付けさせました。といっても、出来レースであって、学者にそれらしく述べさせれば、それが学問的にも正当であるかのような装いを呈するという、ただそれだけのことです。この点は、現在の巨大損保が、自分のところで雇っている医師に、もっともらしい医学用語を並べさせて、損保に有利な意見書を仕立てさせるのに、よく似ています。
 この鐘の銘文を口実に、徳川家は諸大名に号令して、豊臣家討伐に向けて走り出します。
 大坂冬の陣のはじまりです。

 これまで、自動車保険金がいかに支払われていないかを述べてきました。交通事故関係の実務書では、いままで書かれたことのない損保の内情と心理、法的戦略をお話ししてきました。保険というものは、事故が起きたとき、きちんと支払いがなされてはじめて用をなします。実際には、払われるかどうか分からないような保険に入っていて、「事故が起きたら保険金が出るから安心」だという仮想事実のために、保険料を払っていませんか。
 それは無駄です。
 改めて言いますが、自動車保険金は出ないのが普通です。損保からの賠償金の提示額は、作為的に安く構成されています。したがって、あなたが事故に遭いますと、泣き寝入りしない限り、まず九分九厘、相手損保とトラブルになると思ってください。
 被害が大きければ大きいほど、あなたの要求額と損保からの提示額の開きは大きくなります。あなたの怒りの火の手は、一本の木から山全体に燃えひろがります。
 そうなりますと、弁護士に委任したくなるのは必定です。特に損保側の弁護士が乗りだしてきたときは、当然、あなたも弁護士をつけなければ負けてしまうという思いにかられるでしょう。そこで、ご自身の任意保険には、弁護士費用担保特約がついているかどうか、ついているとして、いざというとき、本当に弁護士費用を払ってくれるのかどうか、それをチェックしておく必要があります。
 保険契約者は、どうしても保険料の額に注目しがちです。少しでも安い保険料のところに入りたいというのは分かりますが、いくら安くても、出ない保険に入ったのでは意味がありません。
 トラブルになったとき使いたくなる弁護士費用担保特約にしても、たとえばT損保はすんなり出すのに、M損保はなかなか出さないといった具合に、会社によって運用に差があります。これにひいては、ご自分のストレスを倍加させ、賠償金交渉に少なからず影響を及ぼすことを知っておいていただきたいと思います。
 本書は新書のエンターテインメント化を志したものです。といっても、フィクションを書いたわけではありませんので、念のため。
 新書が小説と違うのは、次の点にあります。
 小説は、描写、会話、説明の三要素で成り立っていますが、新書には前二者がありません。説明、それも解説だけでできています。
 このため、どうしても読者に「お勉強をする」という心構えを要求します。新書が中高年のインテリ層に好まれ、若い人は「お勉強」好きでない限り、なかなか手にとらないのはその辺りに理由があるからでしょう。
 ノベルスのように、拙書を読んでもらえないか。本書で、会話や描写を多くとり入れたのは、そういう理由からです。
 実際の交通訴訟で、損保がどのような戦術を使い、それに対し被害者はどう対抗していくか、この攻撃と防御の実態をさらにリアルにお知りになりたい方は、私のリーガル・サスペンス『審理炎上』(幻冬舎、2009年)をお読みいただきたいと思います。
 損保は、被害者が善良でやさしい人であればあるほど、冷たくあしらおうとします。沈黙は損です。読者のみなさんが事故に遭われたとき、損保の不当に安い提示額に騙されることのないよう、私は願ってやみません。
 弁護士として、被害者保護の見地から。

2010年7月 加茂隆康

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